「これどうですか?何ぼで売れる?」
といって、銀次郎はなにやら得体の知れない健康食品を取り出した。
パッケージはさも高級ですよと、誇示するように過重なほどに衣装をまとっていた。
重厚な黒のつや消しに惜しげもなく、金色の箔押しがピカピカ輝いていた。
パッケージには清涼飲料水「冬虫夏草ドリンク」と印刷されていた。
「冬虫夏草って、中国では昔から漢方で使われてますよね。
高いんじゃないですか?」
「相変わらず物知りだねえ、金有さんは。」
「いえね、若い頃健康食品の会社で販売促進と企画の仕事をやった事があるんですよ。
冬虫夏草って滋養強壮にいいんですよね。
その頃、商品化出来そうなものを色々探していましたから。
最近のはドンドン新しいのが出てきていますから付いていけませんが、
昔のものならどうにか・・・」
「あれ?でも、これ、消費期限がありませんね。何処に書いてあるんだろう。」
といってパッケージをあちこち眺めた。
「10年熟成ですか。」
「ばれちゃったか。実はこれ期限切れなんや。白井が見つけてきたんや。
廃棄になる奴をタダでもらってきた。」
「このままでは売れないから、日付を消すシールを作ったよ。
印字はマニキュアを落とすときに使う除光液を使こうたら完璧に消すこと出来るんや。
ビニールやPBの印字はこれ使こうたら簡単に消せるで。」
「市場やスーパーのバックヤードでよく見かけましたよ。いんちきやってるの。」
「そんなことやってるの。信頼できる店でしか怖くて買い物できないね。」
「消費期限って言う表示もおかしいんですけどね。
個人的な意見としては、昔ながらの製造年月日でいいと思うんですけど、
外圧が強いから仕方ないんですかね。
いずれにしても信頼できる店で買うしかないですよ。」
「ラベルの表示自体が、素人が見ても判断できんようになってる。」
「例えば、お茶の製造月日はいつが基準だか分かりますか?」
「そんなもん、製茶工場でお茶箱に詰めた時やろ。」
「皆、そう思うのが常識ですよね。
でも、実際は違うんですよ。
町の小売店があるでしょう。
そのお店が100グラムとか茶袋に小分けして、シーラーでシールするでしょう。
その日が製造年月日なんですよ。
ですから、新茶でも、10月に小分けして茶袋に入れたら、その日が製造年月日になってしまうんです。」
「誰か宗教法人を知りませんか?事務長とか理事長、教祖様なんか知っていれば最高ですけど。」
「いきなりどうしたんですか?」
「宗教法人って色々と優遇されているでしょう。
税金が掛からないとか、お布施や寄付も集まるみたいですから。
お金持ちですよ。」
「信者が500人もいれば、運営できるみたいですよ。
1人から1万円ずつ寄付を集めても、500万円になりますから。
これには税金が掛かりませんからね。」
「僕が健康食品の会社で販売促進と企画の仕事をやっていたとき、
宗教法人への販売を本気で考えたことがあるんですよ。
健康食品は薬効を謳えば薬事法違反になりますから、
売るためのキャッチコピーとか神経を使うんです。
例えば『肝臓に』と書くと問題があるけど『お酒をたしなむ方に』とか、
『治る』は『喜ばれております』という表現ならOKなわけですよ。
結構大変なんですよ。
ところが、宗教法人ってその辺のところがあいまいだと思いませんか?」
「そういえばそうだな。」
「でしょう。」
「いかにもいかがわしい壷や印鑑をご利益があるといって売りつけたり、
叙霊といって手をかざしたり、祈祷をしたり、
悪質なのは足裏診断などと証して多額の寄付をまきあげたりと、
枚挙に暇がありませんよ。」
「前世がどうのこうの、先祖の祟りがどうのこうのと言われりゃ気持ち悪いですから、
気の弱い人はお金で済むことならとお金出しちゃいますよ。
そのお金に税金が全く掛からないんですよ。」
「だけど、インチキをやっていたら何時かはばれちゃいますからね。」
「だから、確実に効果がある健康食品があれば、いいんですよ。」
「信者には、お布施を寄付してもらったら、その健康食品を差し上げるんですよ。
販売すると、税務署との間で揉める可能性がありますから、販売はしないんです。」
「オリジナルのものが有れば最高ですけど、そんなものがなくても大丈夫ですよ。
市販されているものでも差別化する手段があるんです。
教祖様が3日3晩本殿にこもって断食を続けて、
祈祷して気を込めたものだから市販のものとは姿かたちはそっくりでも、
似て非なるものと言う事もできるんです。
オリジナルのシールでも貼ってしまえばいいんです。
この『冬虫夏草ドリンク』は害はなさそうですし、
元々滋養強壮剤として漢方で有名なものですから、
この条件にピッタリです。漢方4千年の歴史がありますから。」
第六章-第13話 宗教法人教祖を探せ(2)へ続く

