銀次郎に銘酒パブの出資を了承させた黄山は、自分の店の品物を店に回すことによって裏金を作ろうとしていた。
その上黄山は、看板や若干の手直しに自分の知り合いを潜り込ませ、
請求書を水増しさせて、バックマージンを稼いでいた。
そこまで、黄山の金庫は火の車になっていたのである。
黄山の店と言うのは、業務スーパーのフランチャイズで、
店の品物はほとんどが本部のものであり、
それを伝票も切らずに別の店に持ってきて使うと言うことは、
はっきり言って横領罪に当たるのである。
彼の加盟しているFCは、大手コンビニのFCのような立派な契約書があるわけでもない。
50数店舗の店があるが、全て直営店であったのだが、黄山の店がFC1号店で、
いわばFCとしてのテスト店だったのである。
本部としては、この店の状況によって、FCを増やすかどうするかの判断基準にしようとしていたので、契約書もまだ完全なものではなかったのである。
黄山は銀次郎の頼みで、毎日偽装振込みをしているうちに、
1,2日本部への送金が遅れてもお咎めがないことをいい事に、
少しずつつまみ食いをするようになっていた。
レジの係りが、店のお金をちょろまかすのも、最初は両替のお金をついうっかり戻し忘れたとか、
たわいない事が発端の事が多いようである。
例えば、パートさんが家に帰って着替えをしたら、ポケットの中に1万円札が入っていた。
そうだあの時両替したときに、ポケットに入れてしまったんだ。
明日お店に行ったら返しておこう。
と思っていても、お金が足りないことで別段騒いでいるようでもない。
今さら返すのも恥ずかしいし、まあいっか。
そういえば、レジを閉めても、レシートの合計とレジのお金がぴったり合うことはあまりない。
最初は悪意がなかったのが次第にエスカレートしていき、
気が付くと毎日1万円貯金をしていたと言うつわものまで出てくるのである。
黄山のつまみ食いは、いつの間にか1000万円を超えていった。
彼は見栄っ張りだから、車も国産車でも高級車と言われるものを乗り回すし、
会社の経営が左前なのにも関わらず、月に2度のゴルフコンペも必ず参加する。
余談であるが、レジの不正を見抜くいくつかのポイントを書いておこう。
1.いつも現金と、レシートの金額があっている。
(つり銭間違いなどで、若干の過不足があるのが普通でいつもぴったりと言うのは逆に操作している疑いがある)
2.レジの周りのゴミ箱をやたら片付けたがる。
(ゴミ箱を金庫代わりに、お金を隠している場合がある)
3.やたら、トイレに行く。
(当然トイレに行ったときに、安全な場所に隠すのである)
4.レジに入るときに週刊誌などの私物を近くに置く。
(週刊誌や、新聞の間にお札を挟んで持ち出すのである)
5.長靴の中にやたら手をいれてズボンのすそを直したがる。
(昔から長靴は金庫という言葉がある)
「銀次郎さん、口幅ったいようですが、お通しと、つまみは吟味したほうがいいですよ。
土壷は銘酒を楽しみに来るお店になるでしょうから、
つまみが強すぎるとお酒を殺しかねないですからね。」
「金有はんも、いいこというね。」
「ワシも、あっこは男の隠れ家にしたいんや。」
「契約してしまったから今さらどうしょうもないんですが、
次の店は立地を吟味して出してくださいね。」
「ぼくの好みを言わせて貰えば、熊本の馬刺し、長崎のあご(とびうお)の干物、
カネフクの明太子、からすみ、このわた、沖縄のもずくなどはお酒の味を殺さない、
良いつまみになると思いますよ。
それと海産物を仕入れるときは、メーカーを決めておいたほうがいいですよ。
例えばたらこなんか、同じ甘口でも会社によって全然味が違いますからね。
僕のお勧めは、虎杖浜の釣りのたらこがいいですね。日本酒にはピッタリですよ」
第六章-第10話 酒好という女へ続く


ぴったりすぎるのも変なのです。
ほんと、よくご存知です。