「銀次郎さん、いい物件がありましたよ。」
黄山が、貸店舗のコピーを持って銀次郎の事務者に飛び込んできた。
「場所は何処なの?」
「吉祥寺ですよ。駅から5分ぐらいですから立地はいいですよ。これ見てくださいよ。」
「元は何屋さんなの?」
「ナイトパブやってました。居抜きでそのまま使えますから、設備投資がいらないですよ。」
「一寸広すぎないか?」
「広いからいいんですよ。この広さならライブが出来ますからね。」
「これ、ビルの2階って書いてあるけど、下の階は何やってるの。」
「不動産屋さんですね。」
「上の階は?」
「キャパクラとテレクラです。」
「それって、普通の人は入りにくいんじゃないの?」
そんなやり取りをしていると、風祭と金有が立て続けに事務所に顔を現した。
風祭は、黄山の存在を確認すると、すぐに用事があるといって事務所から出て行った。
風祭は未だに、黄山の事を許していない。
銀次郎をはじめ周りの連中は何とか仲直りさせたいと思っているが、
兄弟のように信頼しきっていた時期があるだけに、修復は困難のようだ。
「何かいい話ですか?」と金有が訊ねた。
「折角ピーマン信金から融資も出たし、それを元手に日銭の稼げる仕事をしようかと思ってね。」
えっ、プレミア付きの日本酒をやるんじゃなかったんですか?銀次郎さん。
「ここの店で何をされるんですか?」
「銘酒パブや。」
「銘酒パブって、設備費結構掛かるんじゃないですか?」
「それは大丈夫。今までナイトパブやっていたから居ぬきで設備費はタダや。
かかっても看板代ぐらいで済みますよ。」と黄山。
「料理の材料は、黄山の業務スーパーから持ってくるから、材料費はタダみたいなもんだよ。」と銀次郎。
ロケーションを見て、金有は
「此処って普通の人は入りにくいのじゃ有りませんか?僕なら二の足踏んじゃうな。」
「そんなことないって、今まで此処でナイトパブやっていたんだから。」
「じゃあ、どうして止めちゃったんですか?採算が合わなかったんじゃないんですか?」
「採算は合ってたらしいんだけど、店長が独立して辞めると言い出して、
契約の更新時期と重なったものだから、
そんなこんなでオーナーが続けるのが嫌になっちゃったみたいですよ。
結構年配の方みたいですしね。」
「そうなんですかね。僕にはそうは思えないけどな。」
「それに、吉祥寺は今や若者の間でジョージという愛称で呼ばれていて、
新宿、渋谷についで若者の町になっているから、若者を相手に商売すれば儲かるって。
前に、銀次郎さんに言ったんだけど、夜中はライブをやれるようにしたらいいんですよ。」
「ライブですか?」
「そうだよ。ライブだよ。
駅前にはストリートパフォーマンスをやっている若い連中が大勢屯しているだろう。
あいつらの発表の場にするんだよ。
奴ら発表する場所がないから喜ぶで。
日本タワーよりはずっとロケーションがいいよ。
日本タワーは公共放送が入っているだけに制約がうるさいけど、あっこなら大丈夫や。」
「夜12時以降は貸切にして、朝始発電車が出るまでの間、一晩5万円で貸せばそれだけで、150万円になる。」
「そんなに集まるんですかね?」
「バンドでも、芝居でも何でもいいんだよ。
採算の合わない連中は自然に借りなくなるし、極端な話、
こちらは1晩5万円になればいいわけだから。
セットメニューで乾き物のつまみと、飲み物を用意すれば特別何もしなくてもいいんよ。
特注の料理は別料金を貰えばいいし。」
「詰め込めば50人ぐらい入るから、一人当たり3000円も取れば、
奴らだって15万円になるやろ。
差し引き10万円の儲けや。ぼろい話やないけ。」
「肝心の家賃はいくら掛かるんですか?」
「家賃ですか?家賃は月65万円。保証金は700万円です。
まあ、いくらかまけてくれるよう交渉しますけどね。」
「それで、黄山はん、ここの上がりワシに何ぼ呉れますか?」
銀次郎はすっかり乗り気である。
「最初はそんなには無理ですが、軌道に乗ったら、月30万円は大丈夫ですよ。」
「30万か。年間で360万円ね。700万の投資で年360万なら、年利51%か、そんなに悪くないね。
やろうか、黄ちゃん。明日見に行って結論出しましょう。」
「金有はん、明日一緒に見に行ってくれる。」
「えっ、僕ですか?行ってもいいですけど、飲食は自信ないですよ。
鳥七のマスターにも見てもらったらどうですか?」
「そうだな、マスターの意見も聞いてみよう。プロの意見は貴重だからな。」
いつものコースで、銀次郎は階下の鳥七に立ち寄った。
「マスター、吉祥寺にいい物件有るんだけど、明日一緒に見に行ってくれる?」
「明日ですか。いいですよ。行きましょう。」
第六章-第5話 銀次郎銘酒パブのオーナーに(2)へ続く

