「ナベちゃん(銀次郎の昔の友人はなぜかこう呼ぶ)この間は悪かったね。申し訳なくて、会わせる顔がありませんよ。
まさか私も銀行から尾行(つけ)られているとは思いもよらなかったから、全く無防備だったよ。
金は取られるし、車は壊されるしで散々だったよ。」
突然灰田からの電話だった。
銀次郎は、何を今さらと思ったが、ぐっと抑えて
「灰田さんも災難にあいましたね。
ワシも2000万期待していたのでがっかりですわ。
でも怪我が無くて何よりでしたね。犯人は捕まったんですか?」
と探りを入れた。
「それがまだです。警察も『これはプロの仕事ですね。証拠を残していない。』と嘆いていましたよ。」
「そうですか。ところで、今日は何?」
「この間の事もあるし、ナベちゃんには迷惑の掛けっぱなしなので、
尻拭いをしなくっちゃと考えていたんですけど、やっとそれが出来そうなんですよ。
一度事務所に来ていただけます。」
「えーですけど、新橋の事務所でいいんですか?」
「そーか、新しい事務所教えてなかったですよね。
新橋は狭すぎるんで、中央区の東日本橋に事務所を移ったんですよ。
そちらで会いましょう。」
「灰田はんとこ、景気良いんですね。」
「そんな事ありませんが、事務所の構えも大切ですからね。
ナベちゃんの都合はどう?」
「ワシのほうは何時でもいいですよ。」
「じゃ、一寸待ってください。今スケジュール表見てみますから。
そうですね、今週の木曜日午後2時でどうですか?
後は、ずーっと地方に行っているので。」
「えーですよ。結構急がしいんですね。うらやましいですな。あやかりたい、蚊帳つりたい。」
銀次郎が約束の時間に東日本橋の事務所に行くと、受付には美人の受付嬢が3人座っていて、その奥にはパソコンがずらっと並んでいた。
受付の一人に用件を告げると、内線電話で灰田に連絡をとっているようだった。
暫くすると、奥のほうから灰田が現れた。
「いやあ、よく来てくれました。さっ、さっ、こちらの応接へどうぞ。」
といって、第3会議室と書いてあるドアを開け、使用中の札をかけた。
「ナベさん。アイスコーヒーでいいですか?」
「それでいいです。」
ソファーに座ると、受話器を取って、内線でアイスコーヒーを出すよう指示を出した。
程なくすると、またまた美人の女の子がコーヒーを運んできた。
よく教育されているようで、身のこなし、しぐさなど立ち居振る舞いに一部の隙も無かった。
「いやあ、この間は本当にすまなかった。私もあんな事は初めてでしたので面食らってしまいましたよ。
ナベさんには本当にご迷惑掛けて申し訳なかった。」
といって、目の前のテーブルに今にも顔がぶつかるのではないかと言うほど頭を下げた。
いつまでも頭を上げようといないので、銀次郎のほうから声をかけざるを得なかった。
「まっ、まっ、そんなに頭下げられても。ワシ気にしていないから。
頭上げてください。」
なんと、これで、前回の話はチャラである。
「ナベちゃんに電話したのはほかでもない、お金儲けの話なんですがね、
ワインファンドをやろうと思いましてね。
なにね、投資顧問会社の顧問をやっているんですがね、何かいいファンドはないかということで研究したんですよ。
1年間寝かして数パーセントの利回りじゃ面白くもなんともないですからね。
世の中には怪しいファンドがいっぱいあるでしょう。
失敗したら紙屑になってしまう奴。
例えば、競馬の馬券ファンドなんてのもありますよ。
この世界なんでもありなんですよ。」
「中々、お金集まらないんじゃないの。」
「だから、失敗したら紙屑になってしまうような、ハイリスクハイリターンの商品は長続きしないんですよ。
私んところでやるのは、ノーリスクハイリターンのファンドですよ。」
「そんなものあるわけないでしょう。有れば皆やってるでしょう。」
「それがあったんですよ。皆が気が付かないだけですよ。」
「これ見てください。」
そう言って、灰田は紙袋から資料を取り出して、銀次郎に手渡した。
『ワインファンドへの誘い』
資料の表紙には、そう書かれてあった。
銀次郎は、パラパラと資料をめくって眺めた。
「ワインファンドですか?」
「そうです。ワインファンドをやります。これ儲かりますよ。
何人かに声かけたんですけどね、反応いいですよ。
年利40パーセントで募集すればかなり集まりますよ。」
ワインファンドを手がけている会社は、日本では1社だけだがヨーロッパでは古くからの蓄財方法として知られる投資である。
世界最高の産地ボルドー地方の銘醸ワインなどには株式と同様マーケットが存在し、価格が変動している。
ワインファンドとは、これらを若いうちに買付け、数年間熟成させ、価格が上昇したときに売却し、利益を生み出す利殖の方法なのである。
ワインはよく「何年物」というように、製造された年によって、価格が大きく変動する。
ただ古いだけでは、ワインの価値は決まらないのである。
第六章-第2話 ワインファンド(2)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円


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さあ、銀次郎さんどう出るのでしょう。
お楽しみに。