「お酒の世界ってそんな世界なんですか。」
「酒集める言うても、結構大変なんよ。
表向きにはブローカーには売らんことになっておるから、
ワゴン車のような荷物の沢山積める車で行ったらまずアウトや。
いつも行くところでは、客がすいたのを見計らって、馴染みの店員さんに応対してもらう。
最盛期にはアルバイトに近所の主婦を雇って、集めさすわけや。
1本に付き300円ぐらい手数料を払うて。
此間なんか、あれだよ、
『毎日毎日酒買いに来て、旦那さん本当に呑んどるの。呑んどるんやったら空き瓶持って来い』
言いやがった。えばり腐って客を何だと思ってるんや。全く強気なんやから。」
「そんなに大変なんですか。お酒は免許さえあればなんでも集められると思ってましたよ。」
「ところがどっこい、久保田とか越乃寒梅なんかは問屋を通して買ってるわけではなくて、定価で現金買いなのよ。
だから資金が必要になるわけよ。わかるでしょう、末成はん。」
「仕入は現金で、販売は掛売りだから、どうしても3か月は資金が寝てしまう。
でもね、最初の3月辛抱すれば、後は楽よ。」
「どのぐらい買われるんですか?総額で如何ほどになるんですか?」
銀次郎は、電卓を叩きながら、
「1日頑張って集めても、100本がええとこやろな。
1本5000円として、25日で1250万円必要かな。
3ヶ月で3750万円。諸経費を入れて4000万てとこかな。」
「1回目の入金が月末締めの翌々払いやから、4回目から支払いは楽になるんで、
3か月分融資していただければ上手く行くんですがね。
当然、短期借り入れでええんやけど。
今6月で酒屋も売れんで困っている時期ですさかい、
来月あたりから現生もって買いに走れば年末にはいい酒飲みながら年越しができるんですがね。」
「約4000万円ですね。そうですね、私の一存では即答できないんですが、
会社に持ち帰りまして、上司と相談してご返事しようと思います。」
「末成はん。満天倶楽部ってご存知ですか?」
「いやあ、私は知りませんけど。」
「あっそう。会社案内にはお宅と取引あるようなんだけど。
所在地が新宿だから本店扱いなんだろうね。」
「その満天倶楽部が何かあるんですか?」
「ワシんとこそこで、アルゼンチンワイン売ってるんやけど、
今度そこの関係でNPO法人満天研究所と言うのが発足して、
その記念イベントが日本武道館で5日間貸切で開催されるんですよ。
そこで、満天コンサートが開催されるんだけどね。
若い歌手は出ないんやが、昔はそれなりに活躍した知名度のある演歌歌手が出演するんよ。
5日間で3万人呼ぶといってるんですが、同時に満天市場も行われるんですよ。
ワシんとこ日本酒を展示販売する事になったんです。
コンサートのチケットありますから、上司の方と見に来てください。
そうすれば融資の判断にはなると思うんやが。」
末成は、支店長代理と満天コンサートに現れた。
「よっしゃ〜。これで絵は完璧や。」
銀次郎は握りこぶしを硬く握ってガッツポーズをとった。
「金山さん。おめでとうございます。
会社の融資の条件が出ました。」
「融資していただけるんですか。そいつは助かります。へてからどんな条件ですか?」
「購入先から、買い付け証明はいただけますか?
それが出れば融資いたします。
但し、初回取引ですので、最初は1000万円です。
これは短期貸付という形でお願いします。
金利は3.5%になります。
当然それだけでは意味がないんで、直ぐに、
追加融資の手続きに入りますので1ヵ月後には3000万やらせていただきます。
これは、プロパーでやらせていただきます。
金利は2.8%です。書類が揃ったら実行させていただきます。頑張って儲けてください。」
銀行にとっても、短期貸付で、返済が終わってしまうよりも、
プロパーとして関係を維持しているほうがメリットがあると判断したようである。
銀次郎にとって買い付け証明など、たやすいことだった。
早速、偽造の買い付け証明を添付して書類を整え、ピーマン信金へ提出した。
銀行は預金を預かるだけでは商売にならない。
貸付して金利を貰うことで成り立つ商売なので、優良貸出先を探しているのである。
その証拠に、バブル華やかなころ、必要も無いのに優良企業には押し付けても貸し出したのである。
翌日融資は実行された。
「桜井のかぁーさん。有り難うございました。
ほな、これお借りしていたお金と金利分合わせて600万円。」
「よかったわね。たいしたもんじゃない。」
「それで、お願いがあるんですけど、真っ先におかぁーさんのところに返済に来たんやけど、
あっちこっちに片付けておきたいとこ仰山おますねん。
それで、その600万円貸していただけないでしょうか?
じきに、次の融資が出ますさかい、そのとききっちりお返ししますけん、お願いします。」
銀次郎の巧みなところは、借りた金は一旦耳をそろえて返す。そして、新たな借金を申し込むのである。
貸してるほうは、一旦返してもらってちゃらになっているから信用度も高くなる。
金貸しだって鬼じゃない人の子だ、大丈夫だろうと懐の紐も緩むというものだ。
かくして、600万円の借金に成功した銀次郎は、悠然と錦糸町の街に消えていった。
第五章 (完)
第六章-第1話 ワインファンド(1)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円


銀ちゃん、おみごと
ポチポチ完了〜
このお金をどうやって使うかが大問題です。
個人なら、これぐらいあれば暫くはいい生活できるんですが、会社って意外とお金掛かるんですよね。
六章頑張ります。