「銀次郎さん。どうなの、もう3ヶ月たったけど上手く行ってるの?」
錦糸町の桜井熊子からの電話である。
「もう直ぐ、一丁上がりになりまっせ。
あの時、気前良く全額出してくれはったので助かりました。」
「私は返る当ての無いお金は1銭たりとも貸さないわよ。
でもね、銀次郎さんの絵はよく描けていたから貸したのよ。
成功を祈ってるわ。」
桜井熊子。したたかな女である。
今の旦那のところへは後妻で来たが、彼女の実父はN県で名の知れたやくざの親分だという。
今の旦那はバッタ屋稼業で資産を作り、それを元手に不動産にも手を出した。
ハレンチ学園がキャンパス用地を探しているという情報をキャッチし、
原野だった土地を二束三文の値段で取得して売り抜け莫大な利益を上げたと言う。
もともと価値のない土地だったので、当時の相場の2倍の金額を提示したら、
地主は喜んで売ってくれたそうである。
当然申告などしていない。
しかし、国税に摘発され、重加算税を含めて23億円支払ったと言う。
当時新聞にも大きく報道されたそうだ。
旦那は、自分への戒めとして、その新聞の切抜きを大事に持っているという。
自由にできるお金を120億持っていると言うが、それを見た者は誰もいない。
果たしてそんなに大金を持っているのか甚だ疑問ではある。
と言うのも、移動はいつも電車かバスで、他人の車に便乗しても高速代も払わない。
雨が降ってもタクシーに乗ろうとしないし、喫茶店に一緒に入っても1円も払ったことが無い。
黄山は、自分の店の売上をセッセと銀次郎のピーマン銀行に振り込み続けた。
既に、3ヶ月が経過していた。
ピーマン信金の普通預金通帳は見事なまでに、一流企業からの振込みで汚れていた。
そろそろ仕掛けても大丈夫やろ。
銀次郎は、固定電話の受話器をとり、ピーマン信金に電話を入れた。
「有限会社U.S.O.企画の金山と申します。末成(うらなり)はんいてはりまっか?」
「はい、お電話代わりました。営業の末成です。何か御用ですか。」
「一寸話があるんやけど、来て貰えまっか?」
「判りました。後ほどお伺いいたします。11時にはお伺いできると思います。」
銀次郎の事務所に、ピーマン信金の末成が訪ねてきた。
「お話って何でしょうか?」
「お呼びたてして悪かったね。実は、普通預金口座を解約したいんや。」
「えっ、どうされたんですか。私どもに何か落ち度でもございましたか?」
「いや、何もないよ。良くやってくれてるよ。」
「それじゃ、どうして解約なさるんですか?」
末成は必死に引き止めに掛かった。
(そうら、引っ掛かって来よったで。)
「近くて便利だと思おて、おたくの口座使こうてきたんやけど、
普通口座やといちいち現金払いをしないといけないので、
面倒でかなわんさけ、もうやめるわ。」
「一寸待ってください。社長。
社長様の会社の取引内容なら、問題なく当座を持てると思いますので、
一寸だけ時間をいただけないでしょうか。
ただ、当座開設となると支店で決済できません。
本店決済となりますので、決算書など必要になるのですが、ご用意いただけますか?」
末成は、ハンカチで汗を拭き拭き必死で引止めにはいる。
すっかり、銀次郎ペースである。
「えーですよ。当座が開設出来るんであれば、解約する必要もあらへんから、頼むよ。
何を用意すればいいの?」
「決算書を2期分。直近のですね。決算月は何月ですか?」
「決算は5月や。」
「それじゃあ、平成17年と18年の2期分お願いできますか。
それと、会社の登記簿謄本ですね。
前に頂いたとき拝見したんですが、2年前に社名変更と移転登記されてますよね。
前の所在地の閉鎖謄本もお願い出来ますか?」
「閉鎖謄本も要るの?めんどくさいなぁ。まぁ、しゃ〜ないか。」
「書類が揃ったらご連絡ください。直ぐにお伺いいたしますので。」
末成は、これ以上下げられないと言うほど頭を低くして、事務所を後にした。
「おい、黄山。上手く行きそうや。」
「本当ですか?」
「当座が手に入りそうや。なぁ、ワシの言った通りやろ。
当座が手に入ればこっちのもんや。銭貰ろうたのと同じや。」
「融資も出ますかね?」
「当座をOKすると言うことは、融資もOKちゅうこっちゃろ。」
「そのときは、お願いしますよ。」
「判ってるって。それより、振込みのほう下手打たんよう安生頼んまっせ。」
第五章-第16話 ピーマン信金【融資】(1)
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円

