午前9時。なすび銀行のATMの前に黄山の姿があった。
黄山は、手馴れた手つきで振込み用のカードを作り始めた。
振込先の名前は、有限会社U.S.O企画。
振込み人の名義は日商岩田、丸紅物産、三井商事など東証1部上場企業を始め有名な会社ばかりである。
ピーマン信金口座開設の翌日から、有限会社U.S.O企画の普通預金口座には
日商岩田、丸紅物産、三井商事などの超一流企業からの振込みがあり、
ピーマン信金にも信用照会がバンバンはいった。
信用照会も勿論、黄山たちが仕組んでいることは間違いない。
当然銀行内部では「この会社は中々の会社じゃないか。」と評判も良い。
担当の末成は鼻高々である。
話は遡って、ピーマン信金の口座開設1ヶ月前のことである。
「黄山。ワシ等このままでは共倒れやで。何とかせなあかんな。」
「もう借りられるところは闇金しかありませんよ。」
「お互いに保証人になりあって、紙も取られているし。
銭を借りてばかりじゃどもならん。
あんな高い金利の銭借りていては、しまいには干上がってまうで。」
「銀さん、何か起死回生の手は無いんですか。」
「あるで、あるけどちぃーとばっかし時間と手間が掛かるんや。」
「どれぐらいですか?」
「そやな、4,5ヶ月、いや半年は掛かるかな。」
「そこまでもたせたら何とかなりますか?」
「そりゃなるでぇ!1億位なら引っ張れるし、
約手(約束手形)が手に入れば5億は硬いで。」
「じゃあ〜やりましょうよ。」
「ワシ一人ではどうもならんけん、黄ちゃん協力してくれるか。」
「手伝いますよ。当然でしょう。社長とは一心同体ですよ」
「今店の売上どの位ある?」
「そうですね。『酒将軍』の日商は130万円というとこでしょうか。
月4000万円そこそこです。」
「そこの売上を、一旦ワシの口座に入れてくれへんか?」
「そんなことしたら、自分の店の支払いが出来なくなってしまいますよ。」
「あほんだら!ずっ〜と入れておけとは言ってないよ。
1日置いたら引き出して良いんや。」
「そうすれば、ワシの会社も年商4億8千万の会社に見えるやろ。」
「なるほどね。」
「関心ばかりしてないで、頭は生きているうちに使うんや。」
「ごもっとも。」
「酒将軍の名前で振り込むんじゃないよ。」
「なんという名前で振り込めばいいんですか。」
「世間に知られてる名前がいいな。例えば丸紅物産とか。」
「ラジャー。でも、何処から振り込んだってお金には違いがないじゃないですか。」
「だから、とうしろうは駄目なんだ。
お金には色があるの。
色をつけないと駄目なの。分かる?」
「天下の一流商社と取引があるのと、そうじゃないのとでは銀行の見る目が違うでしょう。
そういうのを数字に出ない付加価値、含み資産というんよ。」
「そうですか。」
「数字で表すことのできない付加価値というのはとても大事なんよ。」
「なるほどね。」
「ワシは腹くくるから、お前も腹くくらんかい。」
「判ってます。」
「えーですか。銀行ちゅうところはお金を貸すのが商売やから、
一定の条件が整っていれば、お金は出るんです。
いわゆる、貸し出し用のマニュアルちゅうもんがあるんや。」
「そんなものがあるんですか?」
「えーですか。条件が揃っているのに貸さなんだら、
金融庁からお叱りを蒙ることになるよって、銀行は出さざるを得んのです。
今月はA銀行とB銀行、来月はC銀行というように、
貸付の当番行が金融庁から指定され枠も決められてるんや。
当番に当たった銀行はノルマを達成しなければならないので、自ずから審査が甘くなる。
せやけぇ、融資を受けやすくなるちゅうこっちゃ。」
「その条件って何ですか?」
「第一は、決算書や。
へてから、2番目は通帳や。
3番目は、納税証明書やな。」
「決算書は、黒字なら問題ないが、赤字でも資産があれば債務超過になっていなければ大丈夫や。
通帳は、取引の実態が如実に現れているから重視するちゅう訳や。
そやから、取引先が重要になるんや。」
「わかりました。わかりました。」
黄山は大きくうなずいた。
「決算書なんか、正規の納税用のほかに、リースなどの審査用として別誂えしている企業も結構ある。
だから、決算書と納税証明書はセットでなければ意味が無い。
それなりの謝礼を用意すればその筋に頼めば直ぐに揃うよ。
通帳だって偽物が作ってもらえるよ。一寸銭が掛かるけどな。」
「銀次郎さんは詳しいですね。」
「そりゃ、伊達に飯は食ってないよ。」
「4番目は、個人情報やな。」
「俺は、駄目ですよ。真っ黒黒のブラックジャックですよ。」
「えーですか。融資を受けようと思ったら、自分の個人情報ぐらいは把握しておかんとな。
個人情報は、銀行関係、貸金業関係、クレジット関係が加盟している情報機関が管理している。
そこに行けば自分の情報を知ることがでけるちゅうこっちゃ。」
「へえ〜。筒抜けなんですね。」
「せやから、融資を申し込んでいる間は、これらの情報は汚しちゃ駄目や。
全てが水の泡になる。ワシが何で桜井のかぁ〜さんから、銭を引っ張っているか判るか?」
「多重債務で貸し出し禁止って訳じゃないですよね。」
「馬鹿にすんなよ。借りようと思えば、まだ貸してくれるところはあるさ。
でもそれじゃ駄目なんだ。
桜井は正規の貸金業じゃないからこれらの情報機関には加盟していないだろう。
だからいくら借りても、個人情報は汚れないちゅうこっちゃ。
あんまり奨められる話じゃないが、融資を申し込んでいて出るのが鉄板なら、
繋ぎ資金がどうしても必要なとき、闇金から借りる手もある。」
付録
個人信用情報機関
(主に金融機関とその関係会社を会員とする個人信用情報機関)
全国銀行個人信用情報センター
http://www.zenginkyo.or.jp/pcic/index.html
〒100-8216 東京都千代田区丸の内1−3−1
TEL 03-3214-5020
(主に貸金業者を会員とする個人信用情報機関)
全国信用情報センター連合会(全情連)加盟の個人信用情報機関
http://www.fcbj.jp
〒101-0042 東京都千代田区神田東松下町41−1
TEL 0120-441-481
(主に割賦販売等のクレジット事業を営む企業を会員とする個人信用情報機関)
潟Vー・アイ・シー
http://www.cic.co.jp
〒160-8375 東京都新宿区西新宿1-23-7 新宿ファーストウエスト15F
TEL 0120-810-414
第五章-第15話 ピーマン信金(3)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円


借入の仕組みがよくわかっておもしろいです。
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勉強になって何よりです。
これは事実みたいです。
借り入れしないで済めば一番いいんですけどね。