「先生、よろしくお願いします。」
「売上如何しましょう?
月400ぐらいにしておきましょうか。
1年で4億8千万。5億に少し欠けるぐらいですが、どうでしょう?
従業員もいないんでしょう。そのぐらいが丁度いいと思いますよ。」
「それで結構です。そうしてください。」
「社長の給料は、100万ということで、いいですか?」
「それでお願いします。」
全く架空の決算書なんだ。
先生は事務的に数字を確認してメモを取っていた。
「決算月が丁度いい具合に先月ですから、直ぐにやりましょう。」
「有り難うございます。恩にきます。」
「金山さん。税金はきますからそれは覚悟しておいてくださいよ。
法人税と消費税、それと所得税と一年後に住民税。
金融機関などから借り入れとかする場合納税証明書が必ず必要ですからね。」
先生は銀次郎が何を企てているか、全てお見通しのようだった。
経理事務所を後にして、銀次郎と風祭は錦糸町の金貸し屋桜井のところに向かった。
車は、直ぐに中央道に入って、首都高に向かった。
「税金ってどれぐらい掛かるか調べておいてよ。風祭さん。」
「いいですけど、年商はいくらにしました?それと社長の給料は?」
「4億8千万と、1200万やけど、ちいとかっこつけすぎたかな。」
「ちいとどころじゃないですよ、格好付けすぎですよ。
ちゃんと調べないとアレですけど、4〜500は覚悟しといてくださいよ。
もしも銀行から出なかったら、ただの死に金ですからね。」
「そうか、そんなにかかるか。困ったな。」
そんな会話をしているうちに、車は錦糸町の出口に近づいていた。
銀次郎と風祭は、錦糸町の純喫茶『ゴッホ』に、桜井熊子と熊子の旦那の4人でいた。
席に着くや否や、熊子が口を切った。
「銀さん、私のワインどうなった?少しは売れてるの?」
「任せてください。あっという間に捌いてしまいますから。
先日も手始めに出したら、500本簡単に売れましたから。」
「本当、それじゃお金早くもって来てよ。」
銀次郎はそれには応えず、
「桜井さん、折り入ってお願いがあります。お金貸してください。」
「あんさん、お金って何に使うの?」
熊子の声が急に変わった。
「これから、銀行相手に大芝居打ちまんねん。そのために銭が必要でおます。」
「何ぼいるの?」
「とりあえずは、500ですね。」
と言って、銀次郎は片手の指を全て広げて突き出した。
「大芝居って、どうするん。あんたは、知恵が回りすぎるから、
私ら凡人は頭が悪いから付いていくのが大変よ。」
「実はいい先生見つけたんですよ。
はっきり言って、ワシの会社登記はされているけど、実際には金の動き、
物の動きが全くないでしょ。
それに担保になるような資産もありませんでしょう。
そんな会社が銭貸してくれ言うても、銀行は何処も相手してくれんでしょう。
先生にその会社を生き返らせてもらうんですわ。
決算書とか必要なものそろえて。
一応黒字にせんといかんから、税金やとか先生の謝礼とか必要でっしゃろ。
お願いしまんがな。」
『金貸し屋桜井』は登録免許を持った貸金業者ではない。
裏の世界の金貸しだが、闇金のように素人を食いつぶす金貸しとは一味違う金貸しである。
パクリ屋、引き屋などバッタの世界に生きる連中と、開設屋などが主な借主である。
彼女は後妻なのだが旦那がバッタ屋稼業をしていた関係で、
その筋の者が自然と金を借りるに来るようになったというわけである。
借りるほうも心得たもので、100万円借りるときは、
利息を上乗せして110万円の小切手を持ってくる。
桜井のほうで何分の利息などとは決して言わない。
闇とはいえ、貸金業法や制限利息法を考えた上でのことである。
熊子は銀次郎の話を聞いて、旦那の顔色を窺った。
旦那は、目で『出してやれ』と言っていた。
第五章-第13話 ピーマン信金(1)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円


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