翌日風祭が銀次郎の事務所に行くと、銀次郎は淹れたてのコーヒーをすすりながら、日課となっている経済新聞を読んでいた。
「昨日はご馳走様でした。」
「しかし、よく考えると鳥七は高いね。焼き鳥なんか1本200円だよ。高くない?」
などと、全然関係ない話をし始めていた。
「そうですか?銀次郎さんは飲みすぎなんじゃないですか?
何か、隣の席の人にまでおごってましたよ。」
「そっか。ワシそんなに酔っとった?」
「それより、昨日の話しですけど・・・」
と風祭は、昨日銀次郎が話していたことを話題にした。
「まかしておいてよ。まず決算書を作らないとね。
売上幾らぐらいにしとく?」
と突然聞いてきた。
「えっ、決算書ですか?」
「そ〜やがな。ワシんとこみたいに何も資産無いとこには、
決算書が黒字じゃないと銀行さんお金かしてくれないでしょ。」
「そりゃあそうですけど、いくらにすると言われてもね。」
と困惑する風祭。
「いい計理士の先生見つけたんよ。
その先生これに金かかるみたいだよ。ハハハハッ」
と言って、小指を立ててニャっと笑った。
「だから、風祭ちゃん、一緒に行ってくれる。」
なるほどと、風祭は得心した。
「分かりました。じゃ午後からでも行きましょうか。」
風祭は銀次郎と件の計理士の先生のところへ行くことにした。
「先生とこ上手く行ったら、錦糸町で銭引っ張るよ。
税金納めなあかんからな。
銀行から銭引っ張る為には、多少の銭と頭は使わんとな。
昔から言うでしょう『はさみと頭は使いよう』て。
せやから、風祭ちゃんと金有さんにはアルゼンチンワインを仰山売ってもらわんと、
錦糸町にも話しづらいけん。安生頼まっさ。」
「ところで、酒好さんと約束した1000万円は如何するんですか?」
「あっ、あれか。あんなもん後でもかまわないよ。
今無いんだから。金が入ったら1000万円ぐらい何とでもしたるわい。」
となんとも強気である。
銀次郎さん、そんなにあっちこっちで大風呂敷拡げて大丈夫なの。
出す出す言って約束した金額合計するととっくに4000万円超えてますよ。
空手形になりませんかね。
まっ、いいか。そんなこと気にしないのが銀次郎流生き方だから。
徳川家康だって、関が原の合戦前にはあっちこっちの大名に空手形乱発したのだから。
こんなやり取りをしているところに、金有が現れた。
暫くすると、水玉もやってきた。
水玉は勝手に自分のコーヒーを入れて、パソコンの前に座り、
早速無料のオンライン麻雀ゲームのサイトにアクセスする。
このところ、水玉の行動は判を押したようにいつも一緒だ。
麻雀のサイトを知る前は、コンピュータ相手の将棋に興じていたが、
相手が機械では中々勝てないが、オンライン麻雀ゲームは相手も変わるし、
付いているときは下手でも勝つことが出来るのが気に入っているようだ。
もっとも、今の水玉には、ここに来ても別段仕事があるわけでもないが、
さりとて家に一人いてもやることが無い。
銀次郎に嫌われていようが、ここに来てオンライン麻雀ゲームをやることが日課になっていたのである。
ある意味では、日課というよりも仕事になっていたのである。
誰だ、水玉にオンライン麻雀ゲームを教えたのは!!
これじゃ猿の?ん?りと一緒じゃないか。
水玉邸を売却してからというもの、銀次郎と水玉の仲は凍りつくほど冷え切ってしまっていたのだ。
ただ、銀次郎にも彼なりの哲学が有り、来るものは拒まない、
来たくなければ来なければいい。
しかし、自分から仕事の話とかは一切しないと。
風祭は金有に、あらましを伝え、
これから銀次郎と件の計理士の先生のところへ行って来ると言って事務所を後にした。
事務所に残った金有は、水玉に
「毎日、朝から麻雀ばっかりやっていて面白いの?飽きないの?」
と嘲笑するように訊ねた。
「仕方ないよ、やることないんだもの。」と水玉は答えながら
「でも、銀さんよりましじゃないの。
あんなことやったって無駄だよ。
金が溶けるだけだよ。
満天なんかお金じゃないし、直ぐに潰れるよ。」
と皮肉ぽっく言いながら、目はパソコンの画面から離れなかった。
「そうかなぁ。あんたのほうがよっぽどおかしいよ。
銀さんは別の意味で頑張ってるじゃない。
色々仕掛ければ、それなりに結果が出るかもしれないじゃないか。
あんたのように何もしないで、麻雀だけやっていたら、
家を売ったお金だって減っていくだけでしょう。
折角手元に残ったお金なんだから、増やすことを考えるべきじゃないの。」
金有は珍しく年上の水玉に説教をたれた。
人前で言ったら角が立つし、何とか水玉に再起をしてもらいたいという気持ちから発した言葉だったが、水玉の心は硬くシャッターを閉ざしたままだった。
水玉は、金有の言葉を無視して、無言で麻雀ゲームをしていた。
第五章-第12話 決算書(2)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円


水玉さん目を覚まさないと。。。
あっ、ポチポチ完了〜
皆でそう言ってるんですけど、水玉さん聞く耳を持たないのです。
如何しましょう。