「えーですか。」
席へ着くなり、早くも銀次郎節が飛び出した。
「ワシら上手い具合に、アルゼンチンワインで満天倶楽部に楔を打ち込んだやろ。
こんなチャンスは滅多にあらへんで、このチャンスを生かさな。
満天倶楽部の酒好は兵隊やから、なんも力はあらへん。
狙いは小鳥遊(たかなし)はんや。
彼女に大場会長を紹介してもらうんや。
ネゴさえ取れればこっちのもんや。
あっこの会長はん金なんかいらん言うてるけど、そんなことあるかいな。
金儲けの話し持って行けば、必ず乗ってくるって。
やっこさん、日本のマルチの草分けみたいな奴やねん。」
「どうするんですか?」
「えーですか。あっこに集まってる連中は、新興宗教にうなされている連中と大差ないやねん。
大場会長を教祖みたいに崇め奉っているから、会長の顔写真入りの日本酒でもワインでも、
あるいは座右の銘でも、要するに会長にかかわりのあるものを並べれば、
忠誠心からわれ先に買いますよ。
これは間違いないって。
尾ノ崎豊の場合とは次元が違ごうとる。」
何かどこかで聞いたような話だな、と風祭は思った。
そうだ、池袋のホテルで、酔っ払ってそんなことを言ってたな。
本気で思ってるんだ。
まっ、いいかぁ。
この前聞きましたって言うのも何だし、初めてのような顔して聞いていればいいか。
「それはそうですけど、」と風祭が口を挟んだ。
「日本酒とかワインと言っても、これがかかりますでしょう。」
と言って、親指と人差し指で円を作った。
「だからそこやねん。
ワインは一時のブームが廃れたとはいえ、業界がおかしくなっていると言う話は聞かん。
小さなワイナリーでもプライドを持って作っているから、
PB(プライベートブランド)を造らせるのは難しいが、
そこへ行くと日本酒の蔵元は大変やで。
焼酎がヘルシィーや、おしゃれや、なんてわけのわからんブームになっているやろ。」
「そうですね、焼酎の森伊蔵とか百年の孤独、魔王なんかプレミアムが付いて取引されてますもんね。
この間ヤホーのオークションで見たのは、森伊蔵で4万円越えていましたよ。」
「せやろ。それに引き換え日本酒で儲かっているのは、テレビで宣伝している大手か、
ごく一部のプレミアムが付く酒を造っているとこぐらいや。
後は細々やっているか、青息吐息がほとんどや。
そんな名もない酒蔵にいって、PBを造らせるんや。
それをネタに銀行から銭を引っ張るんや。
3,4千万うまく行けば片手は出るんとちゃう。
ノンバンクやかて、オラックスあたりは計画がしっかりしていれば1億2億の銭は出すらしいねん。」
そんな、夢見たいな話に銀行やオラックスが乗ってくるのだろうかと風祭は疑問に思っていた。
一体誰が、オラックスの融資話を持ってきたのだろうかとも思った。
銀次郎は酔いも回ってすっかり出来上がり、絶好調である。
鳥七のマスターも呼んで、とうとうと自分の描いた絵を自画自賛していた。
あまり酒の飲めない風祭は、ただただ聞いているばかりだった。
鳥七のマスターは、上手く行ったら、資金を回してくださいとお願いしていた。
マスターには、鳥七をチェーン化してFC(フランチャイズ)を募集して業務を拡大したいと言う大きな夢があった。
それは、この業界に足を染めたときからの夢なのである。
「つぼ七」だって「村先」だって、最初から大きかったわけじゃない。
ナンバーワンに成りたいわけじゃないが、そこそこ業界で認められたいという気持ちが強いのである。
金有が銀次郎の事務所に顔を出したのも、そもそもは水玉を介してFCの相談を受けたのが始まりだったのである。
第五章-第11話 決算書(1)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円


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