「今度の池袋満天会から、アルゼンチンワインを出品することになりましたから、
お手伝いしていただけます?」
酒好からの電話で、そう告げられた。
「6種類各10ケースずつ用意していただけます?」
「えっ。10ケースずつですか?多すぎるんじゃありませんか?」
風祭は思わず聞き返した。
なぜなら、過去のお店での販売経験から、アルゼンチンワインはまだ馴染みが薄く、
わずか2時間ぐらいの展示販売で、そんなに売れるとは思えなかったからである。
風祭のお店は薄利多売の酒のディスカウント店で、
1日平均2000人ぐらい買い物客が来る繁盛店であった。
それでもアルゼンチンワインは10本も売れたことが無い。
200人ぐらいの入場者で、360本ものワインを売ろうと言うこと自体無謀に思えた。
「大丈夫よ。このうちの半分はもう予約を貰ってあるの。
売り上げナンバーワンを目指すわよ。
やるからには私、一等賞じゃなきゃ気が済まないの。」
酒好の鼻息は荒い。
当日、普段は結婚式で有名な池袋サンライトホテルに金有と風祭の姿があった。
満天市場初日と言うこともあって、試飲させながら販売する作戦である。
会場に着いたときには、他の出品者も自分達の販売する商品の飾り付けに余念が無い。
金有と風祭は自分達の飾り付けを済まして、他のお店の状況を見て回った。
無農薬の野菜・果物、から付きの生タラバガニ、近海魚の干物、
手作りのクッキーなどの食品から、アクセサリー、婦人者のブラウス、
オーダーメイドの紳士服などバラエティー豊かな出店である。
1時からの新規会員の為の講習会の前と、途中の休憩時間が販売タイムと言うわけである。
お客はお目当ての店に行くと、携帯電話を取り出しインターネットに接続する。
満天市場に接続して、自分の満天口座から買い物の支払いをする。
お店のほうには携帯電話の口座に満天ポイントが振り込まれることになる。
財布のお金は一切関係ないので、買うほうの気前がすこぶる良い。
幕張のプレオープンのDVDを見て、携帯電話で買い物をするということは分かっていたが、
実際に目の当たりにするとなんとも奇妙な光景である。
銀次郎と小金沢は丁度正午ごろ会場に到着した。
会場の設営はあらかた終わっていたので、
銀次郎、小金沢、酒好の3人は打ち合わせとしょうして1階のラウンジに行った。
驚いたことに、参加者達の買いっぷりが半端じゃない。
飲み屋で使うわけでもあるまいし、安くも無いというよりも高く、
有名でもないアルゼンチンワインが6本単位のケースで飛ぶように売れていく。
とうとう、持ってきたワインは売切れてしまい、
買いそびれたお客には後日発送することになってしまった。
「何なんだ。この人たちは?」
風祭は不思議でならなかった。
有名でもない、アルゼンチンワインがこんな勢いで売れるとは。
開店から1時間もすると食品を中心に他のお店も、
『完売』のプレートを掲げているのが目立ってきた。
主催者側の課長は各お店を回って、次回からはもっと数量を増やすよう指示を出していた。
帰りの車の中で、金有と風祭は話し合っていた。
「あんなにワインが売れるとは思わなかったよ。まだまだ俺の認識も甘いな。」
「誰だって、あんなに売れるなんて想像も付きませんよ。
酒好さんだけですよ。勝算ありと踏んでいたのは。」
「これじゃ、意外と早く銀次郎さんが錦糸町に約束した、
15000本のワインは捌けるかもしれませんね。」
「問題は、貯まった満天をどうやってお金に換えるかですよ。」
「15000本で約1500万満天になりますからね。」
「現金に両替は出来るんだったよね。確か。」
「出来るとは聞いているけど、10分の1とかって言ってましたよ。
150万円にしかなりませんよ。」
「これじゃ、錦糸町が納得しないだろうし、俺達の日当も出ないよ。」
「そうそう、それだよ。」
「銀次郎さんは如何するつもりなんだろう?」
「ブランド物のバッグとか時計が有ったよね。あれを満天で買って、
質屋とかネットオークションで売れないかな?」
「とりあえず、俺達に必要なものは買っておこうぜ。
今度行ったとき、俺は眼鏡を買うよ。
最近遠視が進んで、新聞を読むのも難儀してるんだ。」
風祭は、次回の満天会ではブランド物の眼鏡を買おうと決めた。
第五章-第9話 会員互助会『満天倶楽部』(9)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円

