それから1週間が過ぎ、紅谷から電話が入った。
銀次郎はこの電話を心待ちに待っていたのである。
「もしもし、金山社長ですか。遅くなって申し訳ないです。
3日後の26日に2千万とジャガーをお届けできることになりました。」
「本当。紅谷さん、恩に着ます。」
「とりあえず連絡しとこうと思いまして。
詳しいことはまた電話します。」
銀次郎の頭の中では、様々な成功イメージがめまぐるしく駆け巡っている。
まず最初に、黄山に電話した。
次いで、錦糸町に電話した。
「桜井さん、例のワイン、ワシが全部買いますから。」
いつに無く、銀次郎の声は弾んでいた。
「おめーさん、大丈夫かいな。どこでお金を工面した?」
「いやー、大丈夫です。27日にお金持って行きます。」
お金の出所については口を濁した。
「やあ、小金沢さん。ワインはワシが全部買うことにしたから。
錦糸町のおっかさんには今電話したとこや。
せやから、尾ノ崎の親父さんのほうは安生頼まっせ。
2千セットやったら売れるやろ。」
「流石ですね、金山社長。これが上手く行ったら、次も考えますよ。」
「それで、例のゴルフクラブの件、早よう進めてんか。」
「分かりました。早速先方と連絡とって見ます。
それにしても、社長の人脈は凄いですね。」
「一寸調べて見たんやけど、今日本のゴルフ人口は2000万人ぐらいやろ。
そのうちの1%でも20万人や、0.1%でも2万人やろ。
少なく見積もって、0.1%として1本2万円儲けても、何ぼになる?」
「えーと、一寸待ってください、よ、よ、4億です。」
「なっ!200万円の投資で4億の儲けや。ええ話やないけ。」
毎度成功イメージの銀次郎はんです。
紅谷と約束の26日。
銀次郎は朝から落ち着かない。
今日の午後3時に事務所に来ることになっている。
コーヒーメーカーで淹れた「モカ・コーヒー」を何杯も飲みながら、
最近覚えたての、オンライン麻雀ゲームに興じている。
お金があれば、雀荘に行ってフリーで打ちたいのだが、
銭が入ってくるまでは無料のゲームで遊ぶしかない。
それも後数時間で終わる。
後数時間で、人生が大逆転するのだ。
(どや、これ通るやろ!)
筋パイのイーピンを切る。『パシッ』
とたんに、パソコンから『ロン』
(あちゃ、何でやねん。国士無双かよ。
そりゃないよ、5順目でリーチで、スーピン切ってるんやで。
あほくさ。もう止めや。)
ひとり、パソコンの画面に毒づいている銀次郎であった。
えらい遅いやないか!紅谷の奴、何しとん。
時計の針は、とうに午後3時を回って、4時になろうとしていた。
5時を過ぎても連絡が無い。電話をしたが、
『電波の繋がらないところにいるか、電源が入っておりません』
というアナウンスが流れるだけだった。
どないしたんやろ?
銀次郎のイライラが頂点に達した頃、銀次郎の携帯が鳴った。
「もしもし、紅谷はん。遅いやないか。どないしたんねん。」
「すみません、今まで警察に居たので、連絡できませんでした。」
「何かあったん?」
「実は、ジャガーに乗って、銀行によって2千万下ろしたんです。
時間も有ったんで、1件用件を済まそうと思って、駐車場に車を入れて、
10分ぐらい車を離れたんです。
戻ってみたら、車のガラスが割られていて、バッグがなくなっていたんです。
バッグの中にはさっき下ろしたばかりの2千万円が入っていたんですよ。
警察に被害届けだして、今新宿警察出たとこです。
警察の話では、銀行でお金を下ろすときに見られていて、
後を付けられたんじゃないのって言うんです。
そんな不審な奴、気が付かなかったけどな。」
と一気にまくし立てた。
銀次郎は言葉を失った。
ただ、受話器を握り締めて紅谷の話を聞くだけだった。
紅谷は一呼吸入れて、
「今から警察官と現場に入ってきますので、申し訳ありませんが、今日はそちらに伺えません。」
と言って電話を切った。
「何てこった!」
銀次郎の描いていた夢はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
皆に何て言おうか。
「車の中にあんな大金置いたまま離れるなんて、馬っ鹿じゃないの全く。」
銀次郎は、煙草に火をつけて一口吸ってはもみ消すしぐさを、忙しなく続けた。
銀次郎の目の前の灰皿は瞬く間に、吸殻の山で一杯になった。
2千万円車上荒らしのニュースが報道されることは無かった。
第三章-付録 青木VSトイチ金融(1)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円


銀さん、いい加減気付いてほしいよぉ。
なんと付録がついてるっ
楽しみです