「とりあえず、ビール頂きます。」
黄山は季節に関係なくビールなのである。
「マスター、こっち中生1杯。」
黄山はお絞りで手を拭きながら、
「何かいい話があったんですか?」と切り出した。
「おお、それよ、それ!
大有り名古屋のこんこんちきダァ!」
銀次郎は今日の、紅谷とのやり取りを話し始めた。
黄山にとっては、話の内容などさほど重要ではない。
彼にとっては、金蔓(かねづる)である銀次郎が銭を集めてくれればそれでいいのである。
銀次郎の話を聞いてる振りをして、適当に相槌を入れるのである。
「そりゃ、すごいですね。上手くいったらこっちにも幾らか回してくださいよ。」
「馬鹿言〜たらあかんよ。え〜ですか。」
おっと!久々に出ました、十八番(おはこ)の銀次郎節。
もっとも、『え〜ですか』が出たときはろくなことが無い。
ここまで読み進まれた方はお分かりと思いますが、
『え〜ですか』の銀次郎節が出始めたときは、
銀さん大体お酒が回って酔っ払っているときが多い。
周りの者は「そら、銀次郎節が始まった。」とほとんど聞き流しているのである。
黄山は、荒野まで銀次郎に寄生している寄生虫みたいなものだから、適当に相槌を打ちうなずいている。
黄山の店は相変わらず危機的な状況は変わっていない。いや、むしろ悪化しているのだ。
今は、銀次郎だけが頼りだった。
酒屋の若社長を誑(たぶら)かして手に入れた1号店はとっくの昔に手放してしまい、
今は都内を中心に業務スーパーを70店舗ほど展開しているスーパーの
FC1号店として活路を見出そうとしている。
この店も、土地の所有者を誑かして、全てサブリースで建てさせたものである。
いわゆるトータルファイナンスという仕組みで、建設費から什器備品、
運転資金まで全てがリース契約に含まれている。
土地所有者の大宅さんは月々の支払い分に見合う分を黄山から家賃として徴収するわけである。
黄山は、保証金だけ用意すれば、お店を持てることになる。
実際には、FCの保証金も10回払いの割賦を飲ませてしまったのである。
中々強(したた)かである。
銀次郎と黄山はお互いにファイナンス会社の保証人になっていて、
当座のお金を工面しあう仲なのである。
どちらかが飛べば、もう一方も飛ぶという運命共同体なのであるが、
1点だけ違う点がある、それは銀次郎が紙を切っていて、
黄山は紙を持たないという点である。
下手を打つと銀次郎は3人目の犠牲者、
いや、風祭も犠牲者だから4人目の犠牲者になりかねない。
「え〜ですか。韓国で国際カードを2枚作れば、
キャッシングとショッピングで1000万円ぐらい何とかなりますよ。
韓国は屋台でもカードが使えるほどのカード社会やから、
割と簡単にカードが作れるらしいわ。
せやけぇ、ワシ1ヶ月ほど韓国に行ってくるでぇ・・・・」
もう、すっかりその気である。
翌日、銀次郎は事務所のソファーで目が覚めた。
どうやら、部屋には帰らずに、事務所で寝てしまったらしい。
ちぃ〜と呑みすぎたみたいだ。
頭が少し重たい気がした。
コーヒーを淹れながら、今日のスケジュールを組みなおした。
第三章-第10話 詐欺師紅谷の罠(4)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円

