謄本をしげしげと見て、銀次郎はつぶやいた。
(これは、ほんまもんやないか。)
灰田のために片目になり、お金に不自由を来たした銀次郎は、
最近風祭に教えてもらったパソコンで、
専らヤフーの検索画面からファイナンス関連をクリックしている。
そこでカード申し込みをしていた。
「こりゃあ、便利だね。わざわざ出掛けんでも審査してくれるんや。」
と最近のインターネット事情に感心している銀次郎である。
60歳を過ぎてパソコンに触ろうとする銀次郎の意欲は大したものである。
最初のうちは悪い個人情報もないので、2社ほどは簡単に審査を通り、
程なくカードが送られてきた。
キャッシング枠は30万円の制限があったが、とりあえずこれで60万円にはなる。
ショッピングの枠と上手く組み合わせて使えば、100万円位はどうにかなりそうだ。
気を良くした銀次郎は、次々とファイナンス会社に申し込みを出すが、
今度は審査が通らない。
「おかしいな。此間は通ったのに、この会社の審査おかしいのとちゃうか?」
全然おかしくないですよ!銀次郎さん。
カードをなるたけ多く作りたいなら、
カード申し込みは複数の会社に一気に申し込まないと駄目ですよ。
申し込みの情報がCICなどのコンピュータに載ってしまうんです。
その情報を参考にしてファイナンス会社は,
申し込みを受けるか受けないかの判断をすることになるわけだから、
時間や日にちを明けて申し込んでいれば、コンピュータに載ってしまい、
この人危ないって言う判断になるわけですよ。
だから、情報が載る前に、手早く申し込まなきゃ駄目なんですよ。
そんなわけで、キャッシング枠が300万円なんて夢のような話である。
紅谷の話では、国際カードだから当然日本でも使えるし、
いざと言うときは飛ばしてもわざわざ追求には来ない、と言うのである。
2、3枚作れれば御の字や!
「あっ、ワシや。今晩時間取れる?こっち来れない?ええ話やねん。」
「いいですよ。7時過ぎになりますけど。いつものところですね。」
黄山は二つ返事でオーケーした。
銀さんは事務所の1階にある馴染みの居酒屋「鳥七」に来ていた。
「鳥七」は30坪ぐらいの居酒屋で、名前の通り焼き鳥が美味しい。
店のマスターは小学校中退と言っているが、若いころは相当苦労したようである。
文章を読むことはできるが字は書けないと自慢(?)している。
自分が苦労しただけあって、他人(ひと)の面倒見がいい。
今でこそプレミアが付いて入手困難になっている山形の日本酒も、
余り売れないころから面倒を見てあげたので、
今でも切らすことなく入手できるのである。
その幻の銘酒があるということで、
この界隈はもとより沿線からもわざわざ電車に乗って通ってくる客も居る。
同じビルの上下と言う関係以上に、銀次郎とマスターは親密な関係にある。
詳しいことは解らないが、なんでもマスターが店の賃貸契約のことで困っていた案件を、
銀次郎が解決してあげて以来何かにつけて相談に来るようになり、
銀次郎も晩飯代わりに寄るようになった。
銀さんの晩飯は、専らコメか麦のジュースと相場が決まっている。
何十年もこの生活スタイルで、夜主食は食べない。
これでよく病気もしないで健康で居られるものである。
黄山との約束の時間には、まだ間があった。
銀次郎は韓国焼酎を注文した。
銀さんは、黄山が来るまでの間マスターを相手に、自分の武勇伝を酒のつまみに話していた。
今日は台湾の国民党がらみの話のようだ。
今でも時々、国民党が政権に復帰すれば、どえらい仕事がでけるんやけど、
と当時を懐かしむことがある。
時計の針が午後7時を回ったころ、黄山が現れた。
「遅くなりました。途中渋滞していたので申し訳ありません。」
「まあまあ、えーよ。何にする?ワシ、焼酎お代わり。」
第9話 詐欺師紅谷の罠(3)へ続く
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1650万円

