灰田は、(そろそろ仕上げに掛かるか)、と独り言をつぶやいた。
電車に乗り込み、銀次郎の会社の最寄り駅に向かった。
「ナベさん、俺さ、コスタリカに行ってくるよ。」
「何でまた、コスタリカなんかに行くの?紅茶でもやるの?」
「違うよ。水だよ、水。ミネラルウォーターを仕込んでくるよ。」
「水なんか商売になるの?輸入物もいっぱいあるし、値崩れも激しいよ。」
「大丈夫だよ。向こうは物価も安いし、人件費も安いから、
国内で生産するより安く仕上がるよ。
運賃、関税、その他ひっくるめても30円あれば御の字だ。
20円マージンを乗っけて50円で卸せばディスカウント店は飛びつくよ。
そのために一寸した仕掛けが要るんで、協力して欲しいんだけど、一口乗らない?」
「20円ぽっち儲けたってしゃあないんとちゃう。」
「20円たって、6本入り20万ケース仕入れれば2400万円の儲けだよ。
こんなぼろい話そうはないよ。水は数だからね。
安けりゃ皆ケース単位で買っていくから、直ぐ捌けちゃうよ。
だから倉庫代も目じゃないよ。」
「判ったよ。ほいで、ワシは何を協力したらええねん。」
「300万円の小切手貸してくれない?見せるだけだから。」
「本当に見せるだけやな。ワシ今銭無いんや。
紹興酒の銭が入ってくればちぃ〜とは楽になるんやけどな。入れたらアカンで。」
こんなやり取りで、銀次郎は300万円の小切手を切ってしまう。
ここまでで銀次郎は仲間に1600万円のたかりにあっています。
銀次郎からまんまと300万円の小切手をせしめた灰田だったが、
今回は銀行に直行することは無かった。
そこが灰田の狡賢いところである。
(楽しみは後に取っておこう。)小切手を懐にしまいこんだ。
灰田が帰った後、事務所では銀次郎が思案にふけっていた。
(日本タワーでどんな絵を描いてやろうか。)
(新日本タワーができるらしいが、日本タワーはまだまだ東京のシンボルだ。
ここを舞台に銭儲けしたるでぇ。バーか飲食店、アンテナショップもおもろいな。
そういえば黄山が面白いこと言ってたな、奴を呼んだろ。)
「もしもし、金山です。今夜時間ある。」
「あっ、社長お世話になってます。黄山です。丁度良かった。
私も電話しようと思っていたところです。今夜ですね。大丈夫です。
事務所の下の居酒屋ですね。判りました。」
黄山は、夕方の6時半を回ったところで、店長に出かけてくるといって、車に乗り込んだ。
ローンを組めば何とかなるさと、見栄の塊で買ったような高級国産車である。
(紹興酒の代金はまだ払ってないし、保証人にはなってくれないだろうな。)
などと考えているうちに車は目的地に着いた。
「よお、こっちこっち。」
銀次郎は既に店に入っており、黄山の姿を認めると手招きした。
直ぐに日本タワーの話を持ち出した。
じっと話を聞いていた黄山は、
「こんなのどうですか。今駅前の広場とかちょっとしたとこで、
路上ライブやってる連中が五万といるんです。
結構親衛隊もついているから、
場所さえあればライブやりたくてやりたくて仕方が無い連中ばっかですよ。
追っかけも結構いますから、奴らに貸切で貸したらいいですよ。
外人なんかも来るらしいよ。年に2回ぐらいチャンピオン大会なんかもやって。」
「若い奴らのことはようけ知らんけ、何や面白そうやね。
パー券みたいにして売ったらええんと違う。
呑み放題にして、1人3000円で毎日100人来ればそれだけで900万円になるか。」
「そうですよ。早速明日連中に連絡して探りいれて見ますよ。」
「そうしてくれる。」
「ところで、紹興酒まだありますか?500ケース注文が来ちゃってるんですよ。
金はまだ振り込まれていないんで、どうしようか迷っていたところなんです。」
口からでまかせもいいところである。
「ええよ。金は後でまとめてでいいよ。」
「黄ちゃん。1日ワシと付き合わんか?」
「いいですけど、どっか行かれるんですか?」
「岡崎へ行こう思てんねん。紹興酒岡崎の倉庫に入ってあるやろ。
倉庫も見たいし、あっちで、産廃のヤマがあるねん。
昔の友達から連絡があったんや。」
そういえば、銀次郎は産廃の仕事も手がけたことがあるらしい。
「何でも、1部上場企業の岩原産業が産業廃棄物を、
土壌改良剤と偽って不当に投棄したことが問題になっていてね、
それをレンガに閉じ込める技術を開発した会社があるんだよ。」
「面白そうですね。お供しますよ。」
2人は朝早く黄山の自家用車で、岡崎へ行った。
まず倉庫へ行って品物を確認し、運送屋に500ケースの配送を手配した。
遅い昼食をとって、いよいよ岩原産業へ向かおうとしていたときに、
銀次郎の携帯電話が鳴った。発信番号は、銀次郎の事務所からだった。
「ナベちゃん、大変ですよ。
当座に小切手が回ってますよ。
今銀行から連絡がありました。」
電話口で喋っているのは里原だった。
「どないしたん。
なんで、里原ちゃんがいるん。」
「ワシなぁ、恥ずかしい話、ナベちゃんにお金貸してもらおうと思って事務所に来たの。
そしたら、丁度電話があって、誰もいないものだから、ワシが出たわけよ。
そしたら銀行からで、
『当座に小切手回っているけど残高不足ですから入金してください。』
というわけよ。こりゃ大変だと思い、電話したの。」
「そんな馬鹿な。」
懐から手帳を取り出し、決済の日付と金額を確認したが、
今日の決済は空白になっていた。
銀次郎は約手(約束手形)を持っていなかったので、先付けで小切手を切っていたのである。
ちなみに、小切手の先付けの日付など、相手が守らなければ意味が無い。
銀次郎は急いで銀行に確認の電話を入れた。
それは、なんと、見せ金に貸してくれと頼まれて灰田に切った300万円だった。
「チクショウ!やられた!
もうアカン時間もあらへん。
まして岡崎じゃどもならん。
満もおらへんし。参ったなァ。」
刻々と時間が経過していく。3時を過ぎれば不渡りになる。
とりあえず倒産はしないが、俗に言う片目になってしまう。
灰田の携帯に電話を入れたが、受話口からは無情にも
「現在使われておりません」という抑揚の無いコンピュータの音声が聞こえるだけだった。
2人が事務所に着いたときは午後6時を回っていた。
(何とか銀行に掛け合わなければ、通帳の残高は)
と机の引き出しを開けてまたびっくり、綺麗に無くなっているではないか。
「くそったれ!紅谷の息子にもやられてもーた。」
小切手帳はあったが、銀行カードと通帳が無くなっていた。
まんまと灰田と紅谷の息子にやられた。
満の携帯に電話を入れたが、電源を切っているらしく繋がらなかった。
片目になった銀次郎の苦難の借金生活の幕が開ける。
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・1600万円
第三章 第1話 アルゼンチンマフィア(1)
へ続く


おもしろかったですよ!
片目というのも初めて知りました。
ここから、銀ちゃんの逆襲が始まるのでしょうか。。。
わくわくして待ってますよぉ。
クリック、クリックです。
新しいシーリーズ考えているんですが、頭痛いです。
こちとら、「ぼくちゅう」のように頭脳明晰じゃないもので。(笑)
次も期待に応えられるよ頑張ります。
とりあえず今日から、新シリーズアップします。