暮れも押し詰まった、12月29日のことである。
彼らには、世間で言う仕事納めなどと言う概念は全く無い。
午前11時ごろ緑川は銀次郎の事務所に顔を出した。
その頃には緑川の固定電話回線も1本引き込まれていて、
緑川も事務所代わりに使わせてもらっていた。
昼飯に店屋物のカツ丼を食べていると、黒川が顔を見せた。
暫くすると、元大手運送会社の運転手里原もやってきた。
4人で談笑しながら、コーヒーを飲んでいると、突然緑川の携帯が鳴った。
「もしもし、はい緑川です。」
「えっ、ほんと。まいったな。」
緑川は喋りながら席を立ち、部屋の外へ出た。
だがドアーは締めなかった。
ここが味噌である。
普通は聞かせたくないから、外に出るのだが、
緑川の場合、聞かせるために、敢えて部屋の外に出たのである。
詐欺師の連中は流石に芸が細かい。
「そりゃ困ったな。そんなこの年末にきて急に言われても困るよ。
一体全体今日が何日か知ってるの?12月29日だよ。
世間じゃお正月の準備で会社も御用納めだよ。」
「駄目駄目、金なんか今あるわけ無いだろう。」
なんか、声がやけにでかい。
当たり前、銀次郎に聞こえるように話しているのだから。
緑川は席に戻るなり、
「困っちゃたな、仕入先とトラブっちゃって、
250万円今日中に払えって言ってるんだよ。
奴ら筋もんだから、払えなきゃ小指出せって脅してきやがってさ。
困ったな。」
「そりゃーまずいな。金のあてはあるのかい。」
と黒田がつっこむ。
絶妙のコンビネーションである。
「正月明けには返してくれるかい?」
頼まれもしないのに、銀次郎はお金を融通する気でいる。
銀次郎は人情にもろいのである。
「勿論です。正月明けたら買い手から貰ってくるから。恩にきます。」
「しょうがないね、今紙切るから。」
「はい、250万円。」
黒田と緑川は目が合いニコッとした。
お分かりと思うが、携帯の呼び出しは黒田の携帯から発信されていたのである。
緑川が電話に出たのを確認して、自分の携帯は切る。
緑川はさも電話が通じているように一人で演技していたのである。
流石ベテラン詐欺師、迫真の演技である。
アカデミー賞ものである。
ドアーが明けてあったトリックも理解していただけたと思う。
かくして、まんまと250万円をせしめた3人は、
速攻で小切手の振出銀行に行き、現金に換えたのは言うまでもない。
他行券では直ぐには現金にならないのである。
その日の夕方、黒田、緑川、そして中国に行っているはずの灰田の姿が
新宿歌舞伎町の純喫茶「ゴッホ」の隅っこにあった。
3人の前には、3等分に分けられ銀行の封筒に入れられた、
現金の束があった。
250万円は山分けされたのである。
誰かが行った。
「だから止められないよな〜。この稼業。」
「ブーちゃん(青木)でも呼んで、久しぶりに摘もうか?」
といって、灰田は右手で盲牌のしぐさをした。
「もしもし、あっ、青木さん。俺だよ。どお、久しぶりに摘まない。
3人揃っているんだけど。今、新宿。」
「じゃあ、いつもの南風壮で、6時にね。面白い話があるんだ。」
「長くなるから、会ったとき話すよ。」
暮れも押し詰まった、夕暮れの新宿であった・・・。
銀次郎がここまでに使わされたお金の累計・・・350万円
第9話 ペテン師灰田弘幸


楽しみです。
いつもコメントありがとうございます。
そうです、これから役者がどんどん登場しますので楽しみにしてください。
読者がいると思うと、力が入っちゃいますね。