銀次郎のお陰で、約1千万円もの家賃を支払わなくてすんだ水玉は、
すっかり銀次郎を信用し、住宅ローンの残っている自宅の保全を相談する。
大家から立ち退き料をせしめることに失敗した銀次郎は、
この相談に二つ返事で合意する。
何とか、この物件で現生(げんなま)を手にしたい。
言葉にこそ出さなかったが、銀次郎は喉から手が出るほど現生が必要だったのである。
現金が手に入れば、次にやりたいことが待っているのである。
早速、家の名義を水玉から金井に書き換える。
物件を占有し、競売を遅らせる魂胆である。
「えーですか。」
銀次郎節が威勢よく口を付いて出る。
「住宅ローンで銀行は一番抵当をつけているから、
社長が払えなくなれば確実に差し押さえられてしまいますよ。」
「それに対抗するには、法律が変わって今は占有だけではダメなんじゃ。」
「法律が代わって、占有は競売の悪質な阻害行為として処罰の対象となります。
当然立ち退き料など取れませんよ。」
「えーですか、公正証書を作って、
所有権の移転手続きをする。」
「所有権の移転の原因は、借金の代物弁済というのが無難だな。」
「手放さずに済んで、『元に戻すときは錯誤による』と
明記すれば税金も掛からないし、謄本も汚れない。」
機関銃のように銀次郎の口から出てくる法律用語を耳にして、
水玉は銀次郎を信じきって全てを任せたのである。
迂闊と言えば迂闊、軽率といえば軽率、4〜5千万もする自宅を、
知り合ってからわずか半年ばかりの人間に名義変更をしてしまったのである。
気がつけば、彼の本名も、本籍地も、現住所も何も調べてはいなかったのだ。
そのことが、後々水玉を悩ませ、疑心暗鬼にさせることになるのである。
銀次郎は競売を遅らせ、銀行との交渉に入る。
このまま競売を待っていたのでは、それこそ無一文になってしまう。
銀次郎は競売では手元に何も残らないと判断し、銀行と交渉している間に、
転売して利益を得、二人で山分けするという絵を描いたのである。
住宅や土地などの不動産を処分する場合、相場より若干低く出すと買い手が付きやすい。
しかし、大抵の場合水玉邸と同じように、ローンの途中で売りたいという場合、
1円でも高く売りたいというのが売主の本音であろう。
木造家屋の場合、10年以上の物件は建物は評価されず、
土地の値段で取引されるのが普通である。
何十年もたった古家の場合、立替費用が掛かるのでマイナス要因になることさえある。
果たして、水玉の自宅の運命は如何に?
水玉邸乗っ取り作戦(3)
へ続く

